デジタル庁の発足で省庁のデジタル化は進むのか?

2021年9月1日、デジタル庁が創設されました。菅内閣が誕生したのが2020年9月16日なので、ほぼ1年で新しい官庁ができたわけです。

官庁を作っただけではデジタル化が進むわけではありません。実は、日本ではデジタル化についてこれまで様々な取り組みを行ってきた歴史があります。しかし、省庁のデジタル化は進んでいません。果たして、デジタル庁の発足で省庁のデジタル化は進むのでしょうか。

危機的なデジタル化の遅れ

(1)コロナ禍で問題が顕在化

日本のデジタル化の遅れが顕在化したのは、新型コロナウイルスの世界的流行でした。コロナ禍による経済的支援を目的に各国で給付金が支給されましたが、非常に迅速に給付がなされました。特にドイツでは、申請して2日で支給がなされたというから驚きです 。

https://www.asahi.com/articles/ASN455485N43UHBI02F.html

それに対し、日本では、2020年4月に緊急経済対策として一律10万円の給付金が支給されることになりましたが、大都市圏を中心に8月になってもまだ給付がなされないという状況でした 。

給付が遅れたのは、マイナンバーカードが普及していなかったことと自治体のシステムと定額給付金のシステムが連携できていなかったからです。2020年5月1日時点のマイナンバーカードの普及率は、16.4%にすぎませんでした 。

その結果、早く給付金が欲しいということで、密を避けなければならないのに、マイナンバーカードを取得するために市(区)役所の窓口に長蛇の列ができるという本末転倒の状態になりました。マイナンバーカードを取得した人は、急いでオンラインで申請を行いましたが、結果は、紙で申請した人より遅く支給されるという逆転現象が発生しました。

その原因は、オンライン申請のシステムと住民基本台帳のシステムが連携していなかったからです。オンラインで申請された内容と紙の住民基本台帳を市役所の職員が1件ずつ目視で確認するというアナログな処理をする必要があったため給付が遅れたのです。一方、紙の申請書は、あらかじめ住民基本台帳のデータが反映されているため、確認作業が必要なく、すみやかに支給されました。

当然、世間からは批判の声が挙がり、菅総理は、政権発足と同時に「デジタル庁」の設置を明言することになったというわけです。

(2)行政のデジタル化はこれまでも何度もすると言ってできなかった

デジタル庁の発足で、何か大きく変わるのではないかと期待している人も多いと思いますが、実は、政府がデジタル化を掲げたのは今回がはじめてではありません。20年も前からデジタル化は主張されているのです。

2000年に、森首相は、IT改革を掲げ、「IT基本法」を成立させました。そして、2001年には、「e-Japan戦略 」を策定し、5年で国民に世界最先端のIT環境を提供し、2003年までに全行政手続のオンライン化、ワンストップ化を実現するとしていました。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/04363/
https://www.soumu.go.jp/main_content/000688470.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/it/network/dai1/1siryou05_2.html

2020年には、菅首相が、デジタル庁の新設の表明と「デジタル・ガバメント実行計画 」を閣議決定しましたが、そこで掲げられているのは、20年前と変わらず、行政手続のオンライン化とワンストップサービスです。

どの政権もITの重要性は認識しており、「IT化をする」と宣言すれば世間受けすることも知っています。だから何度も政策としてIT化あるいはデジタル化を掲げてきたわけですが、20年経っても一向にデジタル化は進んでいないわけです。言うのは簡単ですが実現するのは難しいということです。

デジタル庁は縦割行政を打破できるか?

20年前から行政手続のオンライン化やワンストップサービスに取り組んでいるのに、なぜ、一向に進まないのでしょうか。その原因は、官僚のITリテラシーが低さと縦割行政にあります。

国家公務員は、いわゆる「キャリア」と呼ばれる幹部人材の採用試験を突破した人が幹部になります。そして、幹部人材の多くは文系の人材です。そのため、ITには詳しくなく、IT導入に対しては非常に消極的です。

また、縦割行政のため、他の省庁との連携ができないという問題もあります。パソコンの購入も省庁ごとに予算を取って購入しているため、メーカーやスペックもバラバラで、システム開発も省庁毎に発注するので仕様が統一されていません。

「縦割行政」と聞くとなぜ横の連携を取らないのかと疑問に思われるかもしれませんが、国家公務員の採用は省庁ごとになされます。たとえば、厚生労働省に入った場合、出向などを除けば、基本的に一生厚生労働省に務めることになります。つまり、他の省庁は別会社と同じようなものなのです。ソニーがパナソニックのことには関知しないのと同じで、厚生労働省は経済産業省のことは関知しないわけです。

デジタル庁が設置され、行政のデジタル化については、デジタル庁が担うことになりましたが、デジタル庁が他の省庁に対して直接指示を出せるわけではありません。デジタル担当大臣が財務大臣を無視して財務省の職員に指示を出せるわけがありません。

そのため、縦割行政の問題を解決するためには、全権を持っている総理大臣のリーダーシップによるしかありません。つまり、デジタル庁が縦割行政を打破できるかは、次の総理大臣がデジタル化についてどれだけ真剣に取り組むかに掛かっています。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/060119honbun.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pdf/it_kokkasouzousengen.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/201225/siryou4.pdf

行政改革で重要なのは予算の分配

デジタル化を進める場合、パソコンなどの機材の調達費用、システムを発注する場合のシステム開発費用などのお金が必要になります。各省庁がお金を使うためには、予算要求をして、認められる必要があります。

予算は、内閣がとりまとめて、国会で審議され、可決される必要があります。実務的には、7月下旬に予算の大枠である「概算要求基準」が閣議決定され、各省庁が「概算要求書」を作成し、8月末までに財務省に提出します。財務省は内容を精査して各省庁から説明を受け、12月下旬までに各予算を認めるかどうかの審査をします。

大きな予算については、各省の大臣が財務大臣と直接交渉をする場合もありますが、基本的には、財務省の職員が予算を認めるかどうかの審査をします。つまり、デジタル化を進めるためには、各省がデジタル関連の予算要求をするかどうかと、財務省がそれを認めるかどうかに掛かっているということです。

デジタル庁が発足し、デジタル庁にシステム関連の予算を一括して配分することができるようになりましたが、どの程度の予算額なのか、デジタル庁がどのように関与できるのかなど不明の点があるので、今後の検証が必要になります。

入札制度の問題点

システムの導入で問題になるのが、入札制度です。省庁がシステム開発を依頼する場合、担当者が懇意にしている業者を使いたいと思っても簡単に使えるわけではありません。システム開発を依頼する場合、入札によって決めるのが原則だからです。

入札とは、一定の条件で募集公告をして、参加したい企業が入札金額を書いた書面を提出して、その中で最も安い金額の業者と契約を締結するというものです。優れたシステム開発をするためには、どうしても費用が高くなってしまうので、入札では選ばれません。その結果、「安かろう悪かろう」のシステムが導入されてしまうという問題があります。

そうかと言って、自由契約を認めると、役人が賄賂などをもらい癒着した企業にシステム開発を発注するなどの弊害も起こる可能性があるため、簡単に入札制度を廃止するわけにもいきません。現に、最近もデジタル担当大臣やデジタル庁の幹部職員がNTTから接待を受けていたと報道され問題になっていましたので、性善説に立つことは難しいでしょう。

デジタル庁が機能するためにすべきこととは?

行政のデジタル化を進めるためには、デジタル庁の職員が机に座って仕事をするのではなく、各省庁に出向いて、デジタル化をする上で何が問題なのかを把握することが必要です。

どんな行政サービスがあって、どこがデジタル化されていないないのか、あるいは、デジタル化されているのになぜ利用されていないかを現場を見なければわからないからです。

その上で、課題を解決するための方法と予算を計算し、デジタル庁が予算をしっかり確保し、各省庁からの要求がなくても予算を配分するくらいの改革が必要だと思います。

まとめ

今回は、「デジタル庁の発足で省庁のデジタル化は進むのか」というテーマで、行政のデジタル化が進まない理由について解説してきました。

デジタル化というと、技術の問題と捉えがちですが、実際には、縦割行政や予算の問題、入札制度など行政独自のしくみがデジタル化の阻害要因になっています。そして、デジタル化が進むかどうかは、デジタル庁の主任大臣である総理大臣のやる気次第ということになります。

もし、次の総理大臣がデジタル化を本気で進めるということになれば、デジタル化は一気に進むでしょう。そうすれば、民間のシステム関連の取引も増えることが期待されます。特に最近は、中小企業でも入札に参加できるよう要件が緩和されてきていますので、ビジネスチャンスになるのではないかと期待しています。

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